卵巣がん
1.卵巣がんの最近の特徴
- 卵巣がんは最近少しずつ増加している病気です。
またもう1つ注目される事は、卵巣がんの性格が変わってきている事です。女性の臓器の中では卵巣は最もいろいろな種類のがんが出来る所です。昔多かったがんが少なくなり、少なかったがんが増えてきました。これは生活環境の変化が、がんの発生と関係しているのかも知れません。
- 卵巣がんは、ある程度大きくならないと症状が出ない事が多いのです。その為早期発見のための努力がいろいろなされています。
2.卵巣がんの症状
- 卵巣がんは小さい時は自分で感じる症状(自覚症状といいます)が少ないのが特徴です。
腹痛(特に下腹部)、お腹のはり感、腰痛、稀な事ですが、はれた卵巣がねじれて激痛が来て分かる事があります。(捻転といわれます。)
- 月経痛
- 不正出血、月経不順
- ホルモンの異常な働き
ホルモンを出す特殊なタイプがあります。まだホルモンが働いていないはずの小さい子供にホルモンの働きが出る時があります。
例 乳房が発達する
月経様の出血があるなど
- 子宮がん検診の時などで卵巣が異常にはれていると言われる。
- お腹の上から‘おでき,を腫れる。
3.卵巣がんの検査方法
a)婦人科検診
妊娠や感染症などの検診をうけた際、内診などの婦人科検診で異常が見つかる時があります。
婦人科の検診では卵巣の検診では卵巣の大たいの大きさや形が分かりますが、「硬さ」が診察上の1つのポイントになります。 硬い卵巣のおでき(腫瘍)は精密検査が必要です。
■超音波検査
- お腹の上から行う検査…経腹超音波
- 膣内から行う検査…経膣超音波
経膣超音波の方がより詳しく分かるのが普通です。

■MRI検査、CT検査、PET検査
これらはいずれも映像の上で異常を見つける事が出来ます。本当に卵巣の腫瘍か(子宮筋腫と区別が必要な時など)大きさ、形、悪性の可能性があるか、周囲の臓器との関係(癒着があるか、がんであれば浸潤しているか等)が分かります。
若い女性はCTには御注意 CTはX線被爆の問題があります。直接卵巣を検査する時はなおさらですね。 但しどうしてもMRIだけでなくCTが必要な時もあります。そうした時は医師から説明があるのが普通です。 |
PETは良性、悪性の区別、どこから発生した腫瘍かの判定(原発巣といいます) 転移があるか、あるとしたらどこか等を調べるのに有効であると考えられています。 |
■血液検査
- 腫瘍マーカー検査
卵巣がんの時に高くなる時があります。
CEA、CA125、CA199、TPA、SLX、α-フェトプロティン
など沢山のマーカーがあります。
卵巣の腫瘍のタイプにより検査するマーカーが異なるのが普通です。
腫瘍マーカーが高いからと言って全てがんという訳ではありません。子宮内膜症などの良性腫瘍で高くなるマーカー、肝炎などで高くなるマーカー、喫煙習慣があると高くなるマーカーもあります。
- 貧血検査、肝機能検査 など がんが進行すると貧血になる時があります。 その他肝臓や腎臓の検査、血沈検査などをすすめられる時があります。
■その他特殊な検査
必要に応じて医師から検査をうけるようすすめられる時があります。4.がんの進行度
がんがどの程度進行しているかを見る事は大切です。その程度で治療方法が異なるのが普通です。 卵巣がんは進行度によりⅠ—Ⅳ期に分類されます。 このうちⅠ—Ⅲ期はそれぞれa,b,cに分けられます。
- Ⅰ期……がんが卵巣だけあるもの。
- Ⅰa…片方の卵巣にだけあるもの。
- Ⅰb…両方の卵巣にあるもの。
- Ⅰc…がんは卵巣だけですが、腹水があり、その中にがん細胞が認められるもの。
- Ⅱ期……がんが卵巣の他骨盤腔の中に広がっているもの。
(骨盤腔とは子宮や卵巣のあるお腹の中の下の方の部分をいいます)- Ⅱa…子宮・卵管にがんが広がっているもの。
- Ⅱb…その他の小骨盤腔にがんが広がっているもの。
- Ⅱc…がん細胞がお腹の中にこぼれおちているもの。
- Ⅲ期……がんが骨盤の外に広がった場合をいいます。
- Ⅲa…お腹の中のがんの転移と思われる所を切り取って顕微鏡で検査して分かるレベルの異常
- Ⅲb…直径2cm以下の目で見える移転がある場合
- Ⅲc…直径2cmをこえる転移があるかリンパ腺の転移がある場合
- Ⅳ期……卵巣の他、遠くの場所例えば肺などに転移があった場合などを言います。
5.がんの組織型
卵巣がんは顕微鏡でみな形(組織型といいます)が問題になります。 卵巣がんにはその組織型により明らかな卵巣がんと境界型悪性腫瘍があります。
卵巣の腫瘍は大きく次の3つのタイプに分かれます。
- 良性腫瘍
- 境界型悪性腫瘍
- 悪性腫瘍(がん)
この組織型により①どんな治療が望ましいか、②赤ちゃんが欲しい方では赤ちゃんが望めるか等が分かります。
代表的な組織型をあげておきましょう。
●悪性腫瘍
- 漿液性腺がん
卵巣がんの中で最も多い型です。
卵巣の中に水のような内容が入っているものです。
卵巣がんの40−50%がこれです。
- 粘液性腺がん
卵巣の中にヌルっとした粘液が入っているがんです。全卵巣がんの10−15%位です。
- 類内膜がん
子宮内膜に似た形をしたがんです。卵巣に出来た子宮内膜症(チョコレートのう腫)(子宮内膜症のページをごらん下さい)が、がん化したような形をしています。
- 明細胞がん
顕微鏡でみると細胞の中が明るく見えるがんです。卵巣に出来た子宮内膜症と一緒に出来る事があります。
- 未分化がん
顕微鏡で見た段階で卵巣のどこから出来たか分からない、上のどのタイプにも似ていない(これを未分化といいます)がんを言います。
- 未分化胚細胞腫
以前は後にお話する境界型悪性腫瘍に分類されていました。
全卵巣腫瘍の約1%と言われておりますが、若い人におこりやすいと考えられています(20−30代)どちらか片方の卵巣に出来ている事が多く、手術の他放射線療法や抗癌剤の治療がよく効きます。
赤ちゃんを希望される事が多い事から妊娠を希望される方は、医師とよく御相談下さい。
- 悪性の奇形腫(未熟奇形腫)
奇形腫の中には油の成分や、骨や歯、髪の毛などが入っている良性腫瘍(皮様のう腫…デルモイド腫瘍といいます)の他、悪性に分類されるものがあります。これを悪性の未熟奇形腫(G3)といいます。この他境界悪性腫瘍に分類される未熟奇形腫(G1、G2といいます)があります。これらは全て顕微鏡レベルの診断で判定されます(分化度といいます)。
- 悪性ブレンナー腫瘍
良性と考えられているブレンナー腫瘍という腫瘍の中に悪性と判断される部分がある事があります。
- その他、卵巣に出来るリンパ腺のがんの悪性リンパ腫、肉腫など卵巣にはいろいろな種類のがんが出来ます。
- 漿液性のう胞性腫瘍 漿液性腺がんに似ているけれど顕微鏡レベルで悪性度が低い→低悪性度と考えられる腫瘍です。
- 粘液性のう胞性腫瘍
- 類内膜腫瘍
- 明細胞腫瘍
- ブレンナー腫瘍(境界悪性タイプ)
- 未熟奇型腫(G1、G2) 1—6まではいずれも悪性腫瘍の項目をごらん下さい。顕微鏡でみた形で悪性とはいいきれず、境界型に分類される事があります。
- 顆粒膜細胞腫
6.卵巣がんの治療
卵巣がんの治療はたくさんの選択があります。主な治療法は以下の3つです。
- 手術による切除
- 抗癌剤の治療
- 放射線治療
■手術による方法
- 手術の種類
手術についてはがんの種類、進行の程度などから詳しく医師からお話があるのが普通です。
- 卵巣・卵管のみの手術
- 特殊な時は卵巣の腫瘍の部分だけを切除する時があります。
- 片側の卵巣・卵管の切除
- 根本的な手術
- 両側の卵管・卵管の切除+子宮を全部切除 両方の卵巣にがんがある事が疑われる時はその間にある子宮にもがんがある時があります。
- 大網切除 お腹の中を覆っているエプロンのようなもので、ここに卵巣がんがよく転移します。
- リンパ腺の切除
- 虫垂の切除を行う時があります。
- 子宮や卵巣の隣にある腸の切除や膀胱の切除(部分切除を含む)などを行う時があります。
- 肝臓などに転移がある時は、この部分を切除する時があります。 ①→⑥までの組み合わせで手術がすすめられる時があります。
- 試験開腹 一度お腹をあけるのですが、がんの広がり方から、その場では根本的ながんの切除を行わず、その次の治療のための観察と検査を行うだけの時があります。 この手術の結果をふまえて、次の有効な治療がいろいろ考えられます。
- 卵巣・卵管のみの手術
- がんが進行した状態でみつかる時があります。
残念ながら卵巣がんはⅢ期やⅣ期の状態で見つかる時があります。最初の手術で腫瘍をかなりの部分切除し、残った腫瘍の大きさが、2cm未満になったものは、その後抗癌剤を用いたり、抗がん剤使用後に再度手術を行うと治療効果がさらに高くなる事が分かっています。
Fantani Fら、Oncology65:316-322,2003 現在のがんの治療の進歩は目ざましいものがありますから、Ⅲ期がん、Ⅳ期がんと言われても医師と相談の上、明らかな治療があると考えられる治療を積極的にうけられる事をおすすめ致します。
■抗がん剤による治療
卵巣がんについてはいろいろな抗がん剤が考えられています。 抗がん剤は①手術に関連して(手術の前あるいは後に)用いる方法と ②単独で用いる方法があります。治療法については医師から提案がありますからよくお話をしましょう。
- 主な抗がん剤
- パクリタキセル+カルボプラスチン (TJ療法といいます)
- サイクロフォスファマイド+アドリアマイシン+シスプラチン (CAP療法といいます)
- その他抗がん剤を用いた治療法が提案される時があります。
- 抗がん剤を用いる時期
- 手術の前に抗がん剤を使う方法 がんが比較的広がっている場合は、手術の前に抗がん剤を用いると、驚く程がんの広がりが縮小し、手術がし易くなる時があります。これをネオアジュバント ケモセラピィーと言います。(Neoadjuvant chemotherapy) これまではいろいろな抗がん剤が用いられ、それぞれ効果を確かめられてきましたが、最近パクリタチセルとカルボプラスチンを一緒に用いる方法が治療方法として科学的根拠があると推奨されるようにうなりました(日本婦人科腫瘍学会 http://www.jsgo.gr.jp/)
- 手術の後に抗がん剤を用いる方法 手術が終わった後、再発が起きないように抗がん剤を用いる時があります。これを維持療法といいます。この場合パクリタキセル+カルボプラスチン、パクリタ チセルのみ、カルボプラスチンを含むプラチナ製剤、サイクロフォスファマイド+アドリアマイシン+シスプラチン、などいろいろな組み合わせが考えられてお ります。
- セカンドライン化学療法 抗がん剤を使用した後にがんの再発があった場合に使用する抗がん剤の治療をセカンドライン化学療法といいます。現在主に使用されているのは、パクリタキセル、ドセタキシル、イリノテカンなどですが、なお幾つもの有効と考えられているお薬があります。
- 抗がん剤の主な副作用
- 腎臓の機能が低下する時があります。
- 白血球の数が減る時があります。
これらの症状が出た時は症状の程度によりいろいろな治療が必要になる時があります。
また白血球が減った時は、これを増やすお薬を使用する時もあります。
- 脱毛
- 手足のしびれ感などの感覚の異常が出る時があります。
- 肝臓の機能に異常が出る時があります。