乳がん
乳がんについて
乳がんは女性がかかるがんの第1位を占めています。 まず乳がんが発生する乳房の構造をみてみましょう。

乳がんは乳管と小葉から発生します。 乳管から発生するのが乳管がん・・・こちらのがんの方が多い。 小葉から発生するのが小葉がん・・・少ないが最近少しずつ増えています。 乳房のどこの部分にがんが発生しやすいかの研究もあります。 乳房を乳頭部を中心に4等分してみると外側上部に発生する頻度が最も高いと考えられています。

乳房 左右の乳房を比較すると左側の方が発生比率が少し高いと言われています。 (全国乳がん患者登録調査 1999)
がんの進行度
- がんの進行度については治療前の症状で決定される病期分類と、治療後に決定される病理分類があります。 これらは治療前であれば治療法の重要な情報のもとになりますし、治療後であればその後の追加治療の必要性がわかります。 これらは腫瘍の大きさ、リンパ腺への転移がどうか、肺や骨などの乳房から離れた臓器への転移の有無などが考慮の対象となります。主治医とよくお話をしましょう。
- 非浸潤がんという考えがあります。 乳管や小葉で出来たがんが、出来た場所にとどまっていて、顕微鏡レベルで基底膜という膜を破壊していないものを言います。子宮頚がんで言えば上皮内がんに似た概念です。
- 早期乳がんという考えもあります。
- 腫瘍が2cm以下
- がんが進行した時に認められる皮膚の変化のないもの(皮膚からの出血、しこりと皮膚の癒着など)。
- 転移を疑わせる症状がないもの
- しこりが胸壁に固定されていないもの
- 前にあげた非浸潤がんの状態であるもの。
を言います。
症状
- しこり 乳がんの最初の症状の90%はしこりと言われています。自己検診(自己検診のページをごらん下さい)でしこりがあると感じたら早くに専門医の診断をうけましょう。
- 異常な分泌物 乳首から血性の分泌物が出る時は気をつけましょう.
- 乳頭部のびらん、かゆみはページュット病と言われる特殊ながんの時があります。 慢性の湿疹と間違える時がありますから注意しましょう。
- 皮膚の引きつれ がんが皮膚の下に出来ると乳房の皮膚に“えくぼ”のようなひっこみが出来る時があります。
- 皮膚への直接進行 がんが乳房の皮膚にまで進行すると明らかな腫瘍や、潰瘍が出来ることもあります。
診断
- 専門施設での検診
- 視診、触診
- マンモグラフィー レントゲン撮影の一種です。撮影方法や出来上がった写真の判定にはいずれも十分な経験と正確な判定能力が必要とされています。
- 超音波検査 超音波でうつる影で判定します。
- 乳管内視鏡検査 乳管に出来るがんの検診のため内視鏡検査がすすめられることがあります。
- 細胞診検査 疑いのある部分に針を刺し、細胞の形をみる時と、乳頭から分泌物がある時に、これをとって細胞像をみることがあります。 しかし細胞診は判定が難しい時がよくあります。
- 自己検診 自分で乳房のしこりを見分ける方法です。
《自己検診の方法》
- 入浴前後に鏡で自分の乳房の状態をみてみましょう。
- 乳房におできや潰瘍が出来ていないか。
- 乳房の皮膚に引きつれた部分やくぼみがないか。
- 乳首からの血液性や透明な分泌物がないか。
- 乳首になかなか治らない湿疹がないかみてみましょう。なお、この時頭の後で手を組み胸をはったり、ゆるめたりしてくぼみか出来ないかなどを見ましょう。
- 乳房にしこりがないかもチェックしましょう。
- しこりの有無は親指と子指を除いた3本の指の腹の部分で触わるようにしましょう。
- 立ったまま検査する方法と寝た姿勢で検査する方法があります。寝た姿勢の時は、首の下に片手をおいて反対の手で触れるようにしましょう。
- 乳房は下の図のように触診するのが普通です。

- コツは全体をまんべんなく触れること。
- 1つの方法でなく幾つかの方法で触れること。
- 腋の下のリンパ腺が触れている時もあるので、ここも触わるようにしましょう。
- 指と指でつまむようには触れないで下さい。この時は何もないのにしこりと感じてしまう事があります。
- 1ヶ月に1回位は自己検診の習慣をつけておくこと。
- おかしいと思う所があったらすぐ専門医の所に行くことにしましょう。 自分で気づいていて長い間病院に行かず、がんが進行してしまった方が意外と多くおられます。 そんなくやしい思いをしないようにしましょう。 乳がんの診断をうけた方の9割は自分でしこりを見つけて病院を受診されるとの統計があります。しかも早期がんでみつかる割合は、定期的に乳がん検診をうけられる方に多いとの統計もあります。この事から早い段階で乳がん検診をうけるためには、マンモグラフィーを含めた乳がん検診をうけること。乳がんを見落とさないためには自己検診が大切という事になります。
治療
〔 1 〕手術
手術には大きく分けて2つの方法があります。 1つは乳房全体を切除する方法、1つは乳房を残す方法です。
- 乳房全体を切除する方法
- ハルステッド手術(胸筋切除乳肩切除術)
乳房、胸筋(胸の部分の筋肉)わきの下のリンパ腺を切除するものです。進行したがんに行われる手術ですが、最近はこの手術が行われる事は減る傾向にあります。 - 胸筋温存乳房切除術
胸筋を残して、乳房とわきの下のリンパ腺を切除する方法です。この中には胸筋を形成する大胸筋と小胸筋のうち、大胸筋を残す方法と、大胸筋、小胸筋の双方 とも残す方法があります。ハルステッド手術に比べ、手術後の胸の変形が少なくて済むこと、治療の効果がある事などから、現在日本では多くの方が、この手術 をうけられています。
- ハルステッド手術(胸筋切除乳肩切除術)
- 乳房温存手術
乳房温存手術とは乳房全体をとらないで、腫瘍とわきの下のリンパ腺を切除する方法です。手術は腫瘍の広がりなどから、切除する範囲が異なる3つの方法があります。
a )腫瘍摘出術、b )乳房円状部分切除術、c )乳房扇状部分切除術です。
乳房温存手術の場合主治医とよく相談し手術のメリットと再発率などについて、よくお話することが大切です。乳房温存手術は、ある範囲乳房が残る訳ですから、全摘術に比べ残った乳房にがんが再発してくる可能性は否定出来ません。 これを予防するために手術後、放射線療法をすすめられる事がよくあります。 乳房を全部切除した方と温存手術をうけられた方では、生存率に差がないと言われております。 乳房温存手術がすすめられる方は、しこりが1つで、乳房全体にがんが広がっていない方、また乳がんが出来ている場所が考慮される事もあります。 乳房温存手術は、日本では最近とても増えてきています。 - 乳房再建術
乳房を出来るだけ元のような形に戻したいという事から、乳房再建術がよく行われるようになりました。これは主に形成外科の医師によって行われます。
外科手術と一緒に乳房再建術を行う方法もありますので、外科手術の前に主治医と良くお話をする事が大切です。
再建術には、もうがんの再発がないだろうと思われる時期(外科手術後時間が経ってから)に手術をうける方法と、外科手術と再建手術を一緒に行う方法があります。 |
〔 2 〕放射腺療法
他のがんと同様乳がんでも放射線療法はよく使用されます。特に乳房温存手術後に用いられる放射線療法は、明らかな治療効果があると言われております。再発がんや、転移リンパ腺への放射線照射はとても有効な時があります。主治医や実際に治療にあたる放射線科医とよく相談しましょう。
〔 3 〕ホルモン療法
乳がんはホルモンの影響をうけるがんと考えられています。 しかし全ての乳がんにホルモンが効く訳ではありません。 手術の際がん組織を調べてホルモン療法の効果があると考えられるタイプのがん(ホルモンリセプターがあると考えられるがん)にはホルモン療法がすすめられます。 ホルモン療法に用いられるのは注射薬と内服薬があります。
- 注射薬
- リュープリン (酢酸リュープロレリン) 臀部や上腕部の皮下にお注射をします。脳下垂体から出るGn-RHというホルモンを抑えて卵巣から出るエストロゲンを出させないようにする治療法です。
- ゾラディックス (酢酸ゴセレリン) お腹の皮膚をつまんで脂肪組織の中に注射します。働きはリュープリンと同じです。
- 内服薬
- ノルバディックス(クエン酸タモキシフェン) 最も多く使われているお薬といえます。抗エストロゲン剤です。 ノルバディックス を使用すると子宮体がんが増えるという研究があるため、子宮体がんの検査をうけながら使用されるのが普通です。
- フェアストン(クエン酸トレシフェン) 抗エストロゲン剤です。
- アリミディックス(アナストロゾール) アロマターゼ阻害剤といい、卵巣や脂肪組 にある男性ホルモンがエストロゲンにかわる作用を抑えるものです。
〔 4 〕抗がん剤による治療
抗がん剤は主に注射で用いられるタイプと経口剤で用いられるタイプがあります。
- 注射薬
数種類の組み合わせで用いられるのが普通です。- 例)
- CA療法 シクロホスファシド+アドリアマイシン
- CAF療法 シクロホスファシド+アドリアマイシン+フルオロウラシン
など
タキソール (パクリタキセル)、タキソテール (ドセタキセル)などの治療効果も最近注目されています。 卵巣がんの治療でも現在はこの治療法が主体になりつつあります。 お注射の効果と副作用についてはお薬の内容でそれぞれ違ってきます。 主治医とよくお話をされる事が大切です。
- 内服薬
5Fu (フッ化ピリミジン)というお薬と、それを含んだ数種類のお薬が主体です。主にがん治療後の再発予防を目的に用いられます。副作用は比較的少ないと考えられますが、その効果を含めて主治医との相談が必要です。
がんにかかりやすいタイプ
(乳がんにはかかりやすいタイプがあると考えられています。)
〔 1 〕乳がんと遺伝
乳がんは遺伝する病気ではありませんが、少数ですが家族性に発生することがあります。
この原因の多くは乳がん遺伝子が関係していると考えられており現在研究中です。
〔2 〕初潮年令と閉経年令
初潮の年令が早い程(12才以前)、また閉経の年令が遅い方ほど(55才以上)
乳がんの発生率が高くなると考えられています。(そうでない方の約1.5〜2倍位)
〔3 〕母親、姉妹が乳がんになった方
食生活が似ているなどの理由が考えられます。(約2〜3倍)
〔4 〕母親、姉妹が乳がんになった方
食生活が似ているなどの理由が考えられます。(約2〜3倍)
- 30才以上で未婚の方・・・未婚の方は結婚されている方に比べ約3〜4倍という研究があります。
- 30才以上で初めてお産をされた方
- お産をされても授乳経験がないか、極めて短かった方
特に閉経後に肥満になった方は気をつけられた方が良いという研究があります。(約1.5倍)
〔 6 〕以前に乳がんに罹った事のある方
反対側の乳腺のチェックは常に必要です。乳がんにかかりやすいタイプに入っている方は、それだけで恐れられる必要はありません。
もしこのタイプに入っておられれば、定期的な乳がん検診をうけられると良いという意味にとって下さい。
早い段階で見つけて下さいという警戒警報ととられてはいかがでしょうか。
乳がんと食事
- 脂肪の多い食事、特に動物性脂肪を多くとる事は乳がんの発生の確率を上げると考えられています。
- 乳製品の摂取の多い国は乳がん発生が多いと考えられています。
- お魚や海草類は逆に乳がん発生については良い食品と考えられています。
現在日本欧米に比べ乳がん発生率が低いのですが、日本伝統の食事が良いと考えられています。
これは大腸がんについても同様です。 - 野菜や果物はどのがんに対しても有利に働くと考えられています。