子宮内膜症

Chapter 2 子宮内膜症はなぜ起こるの?

Section 1 子宮内膜症ってどんな病気?

はじめに

 最近、よく「子宮内膜症」という言葉を聞きます。成人女性の約10%が子宮内膜症にかかっているといわれています。ここにきて、子宮内膜症の診察を受ける方が増えてきているともいわれ、その理由についてもさまざまな要因が推測されています。
 では、「子宮内膜症」とはどんな病気なのでしょうか?
 ひと言でいえば「普通は子宮の内側にあるはずの子宮内膜という組織が、本来の場所以外にできたため起こる病気」です。
 もう少し詳しく説明すると、子宮内膜組織が本来の子宮以外の場所(卵巣、腹膜、直腸、膀胱など)にでき、それが月経に合わせて一緒に出血してしまうために起こる病気です。出血のため子宮の一部や全体、卵巣などが腫れたりします。
 自分で感じる症状(自覚的症状)として、第一に月経痛が出てくるのが特徴です。しかし、ときには月経前後の痛みや、お腹だけでなく腰痛や頭痛が出てくるときがあります。またセックスのときの痛みが主な症状という場合もあります。もうひとつの特徴的な症状が、月経量の増加です。その結果、貧血になることもあります。

子宮内膜症ができる場所

 子宮内膜組織は本来、子宮の内側にありますが、卵巣の中や子宮の筋肉の中、あるいは子宮周囲の組織にできることもあります。
 子宮や卵巣の中、あるいはその近くにある膀胱、直腸の表面に子宮内膜組織がつくられてしまい、この子宮内膜組織からの出血や癒着(=炎症などが長期間続いて、離れているべき部位がくっついてしまう)が、子宮や卵巣あるいは子宮周囲の組織に影響を与えます。
下図は多く発症する場所です。

以上のようなごく一般的な子宮内膜症のほかにも、子宮筋腫層に子宮内膜組織ができる「子宮腺筋症」や、子宮や卵巣とはまったく関係のなさそうな臓器に子宮内膜組織ができる「異所性子宮内膜症」があります。

子宮腺筋症

 子宮全体が腫れる病気であるため、以前は子宮内膜のひとつのパターンであると考えられていました。しかし発生のしくみが違うため、最近は子宮内膜症と子宮腺筋症とはそれぞれ別の病気と考えられるようになっています。
 双方とも、「子宮内膜組織が本来あるべき場所以外につくられてしまう」という病気のメカニズムは同じなのですが、子宮腺筋症の場合は、子宮内膜組織そのものが「子宮の筋肉の層に入り込んだ状態」をいいます。このため、生理の時期になると子宮筋肉の中で内膜が剥がれて出血し、激しい月経痛が起こります。月経量が多くなって、貧血になることもあり、その症状は子宮筋腫と極めて似ています。
 ただ周囲の組織と癒着することが多い子宮内膜症に比べて、子宮腺筋症は比較的癒着が少ない傾向があります。よく発症する年齢も(好発年齢といいます)、子宮内膜症に比べ、やや高い年齢にあります(30代〜40代)。なお、不妊症になる確率は、子宮内膜症に比べて子宮腺筋症のほうがやや低いと考えられています。

異所性子宮内膜症

 子宮内膜が子宮や卵巣以外の場所にできてしまうことをいいます。一例をあげますと、膀胱に子宮内膜症ができてしまい、月経のたびに膀胱から出血するケースがあります。また直腸にできて排便のたびに出血(下血)するケースもあります。こうした場合、痔などをはじめとするほかの病気と間違えられてしまうことが少なくありません。
 このほかにも、帝王切開手術後のお腹の傷あとや、外陰部にできるケース、肺などの婦人科とは関係のないほかの臓器に子宮内膜ができることもあります。

Section 2 子宮内膜症の原因

まだ分かっていない原因

 子宮内膜症の原因についてはいくつかの説があります。しかし、現時点で決定的な説はなく、子宮内膜症の原因については、いまだにはっきりとわかっていないのです。もしかすると原因はひとつではないかもしれません。

月経血の血液逆流説

 月経のときの血液(月経血)が、子宮から卵管を通ってお腹にまで逆流し、一緒に流れた子宮内膜片が腹膜や卵巣などに付着して内膜症となる、という説です。子宮内膜症が、一般的に月経を有する女性に多く見られることから、数ある子宮内膜症の発症説の中では最もポピュラーな説といわれています。
 しかし、月経の起こらない人が子宮内膜症を発症しているケースもあることから、月経血の逆流だけで子宮内膜症の原因を説明することはできません。

胎児のときからの組織原因説

 赤ちゃん(胎児)の身体の中には、成長後に腹膜となる組織があります。しかし大人になっても胎児の組織がそのまま残ってしまう人がいて、この胎児のときの組織が子宮内膜組織に変化して子宮内膜症になるという説があります。

 このほかにも、「子宮内膜片が子宮の血液やリンパ管を通ってほかの臓器に転移する」「子宮内膜片が分娩時や子宮手術のあとに移植する」といった説がありますが、子宮内膜症の原因に関する決定的な原因説はいまだにありません。

Column1

子宮内膜症とダイオキシンの関係

 毒性の高い環境ホルモンのひとつである「ダイオキシン」と、子宮内膜症との関係に注目が集まっています。動物実験では、ダイオキシンを多く摂取すると子宮内膜症になりやすいという研究結果があります。また人を対象とした研究では、ダイオキシンが母乳に含まれるという結果が出ています。
 しかし、ダイオキシン濃度の高い母乳を摂取した赤ちゃんが子宮内膜症になりやすいという明らかな証拠はありません。この点については現在も研究が進められています。
 ただいずれにしても、母乳に含まれるダイオキシン濃度は低ければ低いほどよいであろうことはいうまでもないことでしょう。自分では何も選択できない赤ちゃんにとって、環境ホルモンなどについて、周囲が気を配るのは大切なことです。

Section 3 子宮内膜症になりやすい方

親あるいは姉妹に子宮内膜症のある人

 子宮内膜症は今のところ、純粋に遺伝する病気とは言えませんが、母親や姉妹に子宮内膜症があると発生しやすいという傾向があります。

 子宮内膜症は、母親や姉妹など(一親等といいます)にあると、発生する確率が高くなると考えられています。
子宮内膜症のない人に比べると、母親や姉妹に子宮内膜症があると6-7倍子宮内膜症になる確率が高くなるとの事です。これは高いですね。
6-7倍というと、もし今生理痛などの症状がなくても、一度は検診を受けておいた方が良い値です。

 また最近では、子宮内膜症と何らかの関係があると思われる遺伝子がありそうだという事が分かっています。
もしそれが本当なら子宮内膜症は遺伝が関係する病気という事になるかも知れません。
しかもそれはまた新しい治療法の発見の入り口になる可能性もあるという事になります。

子宮内膜症と年代

 子宮内膜症と診断された人を年代別に見てみると、20代〜30代で発症する方が多く、40代でピークを迎えます。月経がなくなり始める40代後半で発症する方の数は、それ以下の年代と比べると急激に減少します。このことから子宮内膜症の発症は、「月経のキャリア(回数や期間)」と深く関連していると考えられます。

月経周期の短い方

 月経が開始した日から次の月経の開始日までの間が27日以内の方は、そうでない方に比べると、子宮内膜症になりやすいという研究結果があります。

月経が長く続く方

 月経が長く(7日以上)続く方は、お腹の中が月経の血液に長くさらされる可能性が高いと考えられます。この月経血の中に子宮内膜症のもとになる子宮内膜組織があると考えられています。また、月経血の中の成分(性ホルモン)が子宮内膜症を起こしやすくする、という研究結果もあります。月経痛がお腹の中に出る機会が多かったり、長くとどまっていると、それだけ子宮内膜症になりやすいと考えられています。

母親あるいは姉妹に子宮内膜症の人がいる方

 統計的には、子宮内膜症が母親や姉妹にあると発症する可能性が高くなると考えられています。このため、母親や姉妹が子宮内膜症を発症している方は、子宮内膜症に注意しておく必要があるでしょう。

タンポンを長期間使用されている方

 タンポンを14年以上使用し続けると、子宮内膜症になる確率が3倍になるという研究結果があります。しかし一方で、タンポンの使用と子宮内膜症にはまったく関連性がないという研究結果も数多くあります。

Column 2

子宮内膜症は女性特有の職業病?

 30年ほど前、私が産婦人科医になった頃、子宮内膜症は女性の職業病の一種だといわれていました。
 特に当時、子宮内膜症は、航空機の女性客室乗務員やバレリーナに多い疾患といわれていました。航空機の客室乗務員は、勤務日程が決まれば月経にかかわらず仕事を義務づけられていますし、10人ほどで数百人の乗客の世話をする激務です。バレリーナも、世界各地を飛び回り、月経時にかかわらず毎晩数時間踊り続けるというハードな仕事です。
 このため子宮内膜症を発症する人は、多忙で激務をこなしている人が多いと考えられていました。月経時にハードな仕事をすることが、子宮内膜症の発症に何らかの影響を及ぼしているのではないかと考えられていたのです。
 現在は、女性も男性とほぼ同じ労働条件で働いています。男女間の労働条件、格差がなくなったことについては、男女雇用機会均等法制度(1985年)から今日までに至る、社会法制面での整備が進んだことが大きな理由とされています。
 ただ女性の労働市場への台頭は、社会法制面が整備されたことだけで起きたわけではありません。月経時も普段と変わらずに仕事ができるような環境が整えられてきたことも、大きな理由といえます。
具体的には、生理痛に効果のある鎮痛剤や、生理の際の必需品となる生理用品などが、この数十年で劇的に進歩、改良されたことも大きな要因となっています。
 こうして多くの女性が、男性と変わらずに社会生活を過せるようになったということが、最近になって子宮内膜症の女性が増えてきている事実と関係があるのかもしれません。子宮内膜症と不妊、子宮内膜症とがんとの関係も問題となってきています。
 これまで月経時でも男性と変わらずに女性が社会で活動できることを目指して、さまざまな商品が開発され、社会環境も整えられてきました。しかし、その結果として子宮内膜症の女性が増えてきているのであれば、これからは月経時の女性の身体管理について、社会全体で考えていく必要があるのかもしれません。

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